2009年1月16日金曜日

夏侯淵のように.

 
「蒼天航路」という三国志をもとにした曹操が主役のお話しがあります.

その中に曹操配下の武将である夏侯淵が出てきます.弓の名人です.一介の武将ですから戦(いくさ)でどのように勝つか,もっと言えば自分に与えられた役割に思いを馳せれば良いのです.武将は戦を楽しみ,戦だけの世界に生きています.その口からは戦が語られるのみです.ところが,夏侯淵は次第に戦を超えて国を語り出します.

本来,戦は国を作るための手段ですが,戦の勝利だけを目的にして考えたとしても,兵卒や兵卒に食わせる兵糧,兵糧をつくるための屯田制度や農民,そして,それらに関わるすべて人間の家族を思いを馳せる必要が出てくるのです.さらには,それを永続させる制度を考える必要が出てきます.夏侯淵はそこに到ります.

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「博士に行く学生が少なくなって困る.」
「修士で就職してしまう学生が多くて困る.」
「博士まで進学する学生だけをとろうかな.」
「博士まで行ったら学問の世界に進んでもらうしかないな.」
「博士の学生をどこかのポスドクに行かしたら僕の役割は終わり.」

どこかの教授達の会話です.

上から2つは,自分の研究を進めるために学生が必要だということを言っています.修士までですと,たいていの場合は1つの研究が論文になる前にその学生が修了してしまい,うまく引き継ぎができないと(大抵の場合は出来ないので)1つの研究自体が頓挫してしまい,業績に結びつきません.にもかかわらず,2年間の研究費や時間をその学生に費やさなくてはならないことが不満のようです.

3つめは,自分の研究が進んでくれれば良いということを言っています.研究が論文になり,自分の業績に貢献してくれる人員がいれば良いようです.

4つめは,企業などが博士をとりたがらない現状を言っています.5つめは,大学院での5年なりで学生を使ったら,次のポストまでなんとかすれば,最低限の責任を果たせた,と言っています.学問を職業としても,大学にあるポストの数だけを考えれば,数年の後に学問の世界にはいられない人も出てきますが,そんなことは知ったことでは無いようです.


科学を支えているのは,学問を生業にしている人達だけではありません.研究室では,論文には名の残らない技術員が働いています.秘書や事務員として事務作業をしてくれる方もいます.

さらには科学をするのにお金を出してくれるパトロンがいます.日本では,多くの研究者は実質的に公務員ですから,パトロンはみなさんです.科学は産業に結びつく技術という面と科学としてしか意味を持たない芸術の面があります.技術の有用性は多くの人が想像できるでしょうから省きましょう.科学の芸術という側面を考えた時,科学者はその芸術性を理解してくれる人間を育てる必要もあるのです.その点で,直接に科学を生業としなくとも,修士や博士過程で学んだ学生が社会で活躍してくれなくては困ります.より科学に近づいた学生が科学以外の社会で活躍して,科学の重要性を文化として成熟させてくれなくては,科学は成り立ちません.

先ほど挙げたセリフの5つめに「博士の学生をどこかのポスドクに行かしたら僕の役割は終わり.」があります.無責任だと思います.確かに,自分から離れた学生に対してまで責任を果たす必要はないでしょう.学生の側もその世界で自分の力でサバイバルしていかなくてはなりません.私は,個別の学生に対して責任を果たせと言っているのではありません.その様な制度を作り上げている責任を言っています.

学びたくて博士まできて,しかし博士まで来ると,科学の世界のポストは少ないし,企業へ就職する道も厳しいというのでは,賢い学生ならば博士など来るわけありません.科学の世界のポストが少ないのは仕方ないとしましょう.ですが,そこからあふれた時の受け皿は科学を携わっている人達が考えなければいけません.科学の世界がすべてを受け入れられない制度ならば,その外の世界も考えなければいけないでしょう.

科学は,1つの研究だけを見れば遅々としたものです.TVや新聞で報道されるているのをみると,なにやら素晴らしいことが発明されたり発見されたりしているように見えますが,多くの場合は飛躍して書かれています.大学院に来た学生は,研究の新鮮な楽しさと共に,まだわからないことだらけの実情に絶望するはずです.大抵の学生は,大学院に入る頃はまだ論文を十分に読んでいませんから,無邪気に空想を膨らまし,それが自分の手で実現すると思っているものです.しかし,大学院に入ってきた時に解明したいと思ったこと,その初々しい野心を実現しようと思えば,大抵は100年の単位で事を考えなければ実現しません.実際は空想には埋めなければいけない隙間だらけなのです.大計を描かなければいけない必然があります.大計を描けば,これまた必然,科学の周辺に目をやらねばならないのです.

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夏侯淵は定軍山の戦いで劉備に敗れます.劉備は夏侯淵の亡骸を首を取らずに曹操へと送ります.亡骸とともに,一国の王を返す,という旨がしたたまれます.曹操は,この一文を以て夏侯淵が如何に戦ったかを知ります.



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